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浦和地方裁判所 昭和61年(ワ)788号 判決

原告

丸山潤

被告

橋本展子

ほか二名

主文

一  被告橋本展子及び同株式会社フタバスポーツは、原告に対し連帯して金二二一四万一八九四円及び内金二〇一四万一八九四円に対する昭和五九年七月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告橋本展子及び同株式会社フタバスポーツに対するその余の請求並びに被告大正海上火災保険株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告大正海上火災保険株式会社との間においては全部原告の負担とし、原告と被告橋本展子及び同株式会社フタバスポーツとの間においては、原告に生じた費用の二分の一を同被告らの負担とし、その余は各自の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告橋本展子(以下「被告橋本」という。)及び同株式会社フタバスポーツ(以下「被告フタバスポーツ」という。)は原告に対し、連帯して金五九一五万三三三九円及び内金五四一五万三三三九円に対する昭和五九年七月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告大正海上火災保険株式会社(以下「被告大正海上」という。)は原告に対し、右金員の内金三一四万円及びこれに対する昭和六一年七月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を被告橋本及び同フタバスポーツと連帯して支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、昭和五五年六月一九日午後六時ころ、自動二輪車(大宮み九二八二号、以下「被害車両」という。)を運転し、埼玉県朝霞市幸町一丁目四番一一号先道路のセンターライン寄りを直進中、左前方を同一方向に進行していた被告橋本運転の普通貨物自動車(埼玉四四ゆ六二二三号、以下「加害車両」という。)と並進状態となつたところ、加害車両が右方に転回し、その右側面を被害車両に衝突させて、転倒させた(以下「本件事故」という。)。

2  原告は、本件事故によつて、脳挫傷、頭部挫傷、腰椎挫傷及び左膝関節内血腫の傷害を受け、昭和五五年六月一九日から昭和五六年三月一八日まで朝霞外科・整形外科で治療を受け(入院七三日、通院実日数一〇七日)、さらに同年四月二四日から同年六月三日まで秀島病院で治療を受けた(入院一六日、通院実日数八日)。

3  被告らは、左記原因に基づき、本件事故によつて原告が被つた身体傷害による損害を賠償する責任がある。

(一) 被告橋本は、右後方の安全確認をしないで加害車両を転回した過失がある(民法七〇九条)。

(二) 被告フタバスポーツは加害車両の運行供用者であり、かつ被告橋本の使用者であり、被告橋本は業務の執行中に本件事故を起したものである(自賠法三条又は民法七一五条)。

(三) 被告大正海上は、被告フタバスポーツとの間で、加害車両につき自賠責保険契約を締結しており、同被告に自賠法三条による責任が生じたことにより、その保険金額の限度において(自賠法一六条)。

4  原告は、右のとおり治療したものの、時々眩暈が生じ、前頭部から後頭部にかけて疼痛があるなどの後遺症が残り、昭和五六年五月二八日症状固定(自賠責保険の後遺障害等級第一二級一二号の後遺症)の診断を受け、この後遺障害等級を前提として、昭和五八年三月、被告橋本及び同フタバスポーツとの間で、次の内容の示談契約をした(以下「本件示談」という。)。

(一) 被告橋本及び同フタバスポーツは、原告に対し、本件交通事故による原告の身体傷害ににかかる損害賠償として、治療費、看護料、雑費、休業損害、慰謝料、後遺障害補償費その他一切の費用の合計金四八五万一三八〇円の支払義務があることを認める。

(二) 前項の損害賠償金のうち金二八五万一三八〇円については、すでに被告橋本及び同フタバスポーツが支払済みであるので、同被告らは残額二〇〇万円を支払う。

(三) 原告の後遺障害が将来一二級を超えて増悪した場合、新たに認定された後遺障害等級と従前の一二級との差額を、別途協議のうえ、同被告らは原告に支払う。

5  原告は、被告橋本及び同フタバスポーツから、本件示談による残額二〇〇万円の支払いを受け、また被告大正海上から、後遺障害等級第一二級とする保険金二〇九万円(昭和六〇年政令第四号によつて改正される前の自賠法施行令二条の別表記載金額、以下同じ)の支払いを受けた。

6  その後原告は、後遺症が増悪し、昭和五九年七月一〇日から昭和六〇年一一月三〇日まで新座志木中央病院に通院(実痛院日数四五日、昭和五九年七月一六日、一七日の二日間は入院)して治療を受け、昭和六〇年一〇月五日に症状固定の診断を受けたので、被告大正海上に対し後遺障害等級の認定申請をしたところ、同被告から第九級一〇号の認定を受け、その保険金額五二二万円から第一二級として受領済みの保険金二〇九万円を差し引いた差額三一三万円の支払いを受けた(ただし、この項のうち、新座志木中央病院への入通院の事実については、被告橋本及び同フタバスポーツの関係では、甲第一号証、第八号証の一、第九号証及び原告本人尋問の結果により認める。)。

二  争点

本件は、原告が、本件示談後に後遺症が増悪し、その後遺障害等級が第七級相当であるとして、被告橋本及び同フタバスポーツに対しては、症状が増悪したことによる新たな損害金とこれに対する治療再開の日からの遅延損害金の支払いを、被告大正海上に対しては、自賠法施行令別表記載の第七級の保険金八三六万円から既払額五二二万円を差し引いた差額とこれに対する訴状送達の日の翌日からの遅延損害金を支払いを、それぞれ請求をした事案であつて、左記主張の当否が争点である。

1  原告の主張

(一) 本件示談後の症状

(1) 原告は、昭和五八年夏ころから、〈1〉目の前が白くなるとともに意識がなくなり倒れることがある、〈2〉性格が著しく変化し、饒舌のときと寡黙のときとの差が激しくなつた、〈3〉知能の低下、〈4〉言葉が出なくなる、〈5〉光が極度に眩しくなる、等の自覚症状が生じた。新座志木中央病院でのCT検査によると、右前頭葉に比較的大きな低吸収域があり、また脳波検査によると、右前頭部、側頭部及び頭頂部に徐波の群発が認められるなどの他覚的な所見が認められ、外傷性てんかんと診断された。

(2) 原告には、左膝に脱力感ないし不安定性があつたところ、昭和六三年一月二六日、同病院での診断の結果、左膝後十字靱帯に陳旧性断裂のあることが判明した。これは本件事故によつて生じたものである。

(二) 後遺障害等級と労働能力喪失の程度

(1) 原告は、後遺症が増悪した後の昭和六〇年二月一一日から原告の友人の父親の好意で、同人が経営している会社に雇用してもらい、社会復帰のための訓練としてごく単純な軽作業に従事していたが、身体への負担が大きく、同年一二月二〇日には退職せざるを得なかつた。

(2) 原告の被つている後遺障害等級は、前項(1)の症状だけですでに第七級四号[神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの]に該当する。仮に、これが第九級一〇号[神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの]に止まるとしても、前項(2)の症状は後遺障害等級の第一〇級一一号又は少なくとも第一二級七号(労働能力喪失率は二七%ないし一四%)に該当するので、第九級の労働能力喪失率(三五%)と合わせると、六二%ないし五九%となり、その中間に位置する第七級(労働能力喪失率五六%)と見るのが相当である。

(三) 損害額

本件示談後に生じた損害は、別紙損害明細書記載のとおりである。

2  被告橋本及び同フタバスポーツの主張(過失相殺)

本件事故は、被告橋本が右折の合図を出しながら右折にかかつたところ、右後方から追従してきた被害車両が加害車両の右側部に衝突したもので、原告にも前方を進行する車両の動静に対する注意を怠つた過失がある。損害額の算定に当たつては、原告の過失割合を二割程度として斟酌すべきである。

第三争点に対する判断

一  本件示談後の症状について

1  先ず、外傷性てんかんの点について見るに、甲第一、二号証、第三号証の一ないし一四、第六号証、乙第一ないし第三号証、第四号証の一、二、証人丸山直喜及び同嶺崎隆幸の各証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、事故後約一年が経過する昭和五六年五月当時においても頭痛や眩暈、腰部疼痛等の自覚症状があり、脳波検査で異常所見が見られたものの、通院治療を受けていた秀島病院において、同月二八日症状が固定したと言われ、治療を一応打ち切つた。その後間もなくの昭和五六年夏ころから、原告は、嘉津味屋(蕎麦屋)の店員として勤めるようになり、昭和五八年三月には本件示談契約を成立させた。

(二) 原告は、昭和五九年五月ころ十二指腸潰瘍に罹り、新座志木中央病院で治療を受けたが、前年の夏ころから時々意識がなくなつて倒れるという症状が出始め、そのほかにも、〈1〉性格が内向的になり人込みに出るのを嫌うようになる、〈2〉ボーツとして思考力が低下することがある、〈5〉光が極度に眩しく感じる時がある、等の症状が出ており、同年七月一〇日同病院の脳外科で診察を受け、同月一六、一七日には入院して検査を受けた。その結果、CTスキャンによる検査で、右前頭葉に比較的大きな低吸収域があり、また脳波検査では、右前頭部、側頭部及び頭頂部に徐波の群発があるなどの他覚的な所見が認められ、これらの検査結果及び自覚症状等に基づき、同病院の嶺崎隆幸医師は、「外傷性てんかん」の診断を下し、抗痙攣剤を継続投与する治療を続けた。そして昭和六〇年一二月末現在、なお投薬を継続しているものの、てんかんの発作は服薬でコントロールされており、次第に改善の方向に向かつているが、投薬を打ち切ると依然として発作が再燃する可能性がある。当時の状態を前提とした場合の原告の労働能力について、同医師は、自賠法施行令別表記載の第九級一〇号[神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの]に相当し、その後は多少はよくなつているものの、一ランク下の第一二級一二号とするのは相当でない、との見解を述べている。

(三) 原告は、嘉津味屋に勤務中、出前に行つて転んだり、手が震えて食器を落としたことが度々あり、右のとおり外傷性てんかんの診断を受けたことから、蕎麦屋の仕事は無理だと考え、昭和五九年一〇月ころ嘉津味屋を辞め、その後昭和六〇年二月ころから、友人の父が経営する丸徳商事(紙の収集運搬業)に勤務した。そこでの仕事は、故紙の仕分けや四トントラツクを運転しての故紙の運搬等であり、同年末ころに退職した。翌六一年から、原告は、父の友人が経営する丸亀産業(花屋)に店員として勤務するようになつたが、発作が出そうで体調の悪いときがあり、勤務できるのは月のうち半分程度である。原告は、昭和五七年一月二六日に普通免許を昭和五九年一一月二二日には大型免許を取得しており、丸徳商事に勤務していた期間中に、制限速度違反や積載重量違反をし、またトラツクから転落し、左前腕を受傷するという事故に遭つた事実があり、右丸亀産業では、自己所有の自動車を運転して商品の配達を行なうこともある。

2  次に、左膝後十字靱帯の陳旧性断裂について見るに、甲第一五号証、第一八、一九号証、乙第五号証、証人渥美敬の証言及び原告本人尋問の結果によれば、次のとおり認められる。

(一) 原告は、本件事故により左膝関節内血腫の傷害を受け(この事実は争いがない。)、嘉津味屋に勤めていたころ、左足が膝を後ろから突かれたようにカクツとなり、力が抜けたようになることがあつたところ、その後昭和六二年夏ころから左膝に痛みを感じ昭和六三年一月八日、新座志木中央病院で診察を受けた。検査の結果、サギング及びポステリア・ドロウワーの各テストにプラスの所見があり、左膝の不安定性が明らかに認められた。これらの所見から、同病院の渥美敬医師は、本件事故による左膝後十字靱帯の陳旧性断裂であるとの推定診断を下し、その旨の診断書(甲第一五号証)を発行した。

(二) その後、明確な原因を探究すべく、原告は同年五月二六日から二八日から同病院に入院して、左膝の関節鏡の検査を受けたところ、検査結果には、「膝蓋骨、大腿骨の軟骨異常なし、半月板異常なし、前十字靱帯も鈎で引つ張るも異常なし、後十字靱帯による不安定性と思われる」と記載されているものの、後十字靱帯断裂の所見は記載されておらず、その診断名は「左膝内障」とのみ記載されているだけである。治療方法としては、筋力増強の理学療法が施されており、固定装具を必要とする程のものではない。

(三) 獨協医科大学越谷病院の整形外科部長五十嵐裕の意見書(乙第五号証)には、「関節鏡は関節内の病変を直接目視して診断できるので、これに勝るものはないが、その診断結果として左膝内障とのみ記載されているのは、関節鏡によつても症状の原因が特定できなかつたことによるものと考えられる。左膝痛が前年の夏ころに生じたものとすると、事故後七年を経過しており、事故がその原因であると特定することは極めて困難である。」旨の記載があり、この見解については、渥美敬医師も特段の異見を有しているわけではなく、ただし同医師は、事故から八年もたつと関節鏡でも断裂が明らかには見えないことが普通であると述べている。

3  以上の事実及び証拠関係を総合して考察すると、外傷性てんかんの症状は、本件事故に起因して生じたものであると認めるのが相当であるが、左膝痛と左膝の不安定性については、発症の時期及び検査の結果等によつても、その原因が左膝後十字靱帯の断裂であり、かつ、それが本件事故によつて生じたものであるとの事実を肯定するに十分でない。

そして、外傷性てんかんによる労働能力喪失の程度は、自賠法施行令別表記載の第九級一〇号[神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの]に相当し、第七級四号[軽易な労務以外の労務に服することができないもの]の程度には達していないものと認めるのが相当である。また、左膝痛そのものは本件事故に起因するとしても、[下肢の関節の機能に障害を残す](第一二級七号)とまでは認め難い。

二  損害について

1  別紙損害明細書の各項目にしたがつて判断する。

(一) 治療費

甲第八号証の一ないし一八及び第九号証によれば、原告が昭和五九年七月一〇日から昭和六〇年一一月三〇日まで新座志木中央病院に通院して治療を受けた治療費及びこの間の二日間入院して検査を受けた費用の合計は、金八万三六四六円であつたことが認められる。

(二) 入院雑費

二日間の入院雑費として、原告は、一日につき金六〇〇円を請求しているところ、右入院が検査のためであつたことを考慮するならば、右の金額は相当である。

(三) 休業損害

原告は、昭和五九年一〇月ころまで嘉津味屋に勤務し、昭和六〇年二月ころからは丸徳商事に勤務していたこと及び新座志木中央病院に入通院した実日数は四七日であつたことは、前記のとおりであるから、少なくとも右四七日分の得べかりし収入を失つたものと推認されるところ、甲第一〇号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告(昭和三九年一月八日生れ)は、本件事故当時、株式会社日興社に勤務するかたわら、埼玉県立朝霞高等学校(定時制普通科)に通学しており、本件事故に遭わなければ、遅くとも昭和五八年三月には卒業できたものと認められ、その場合には通常の高校卒業者程度の収入が得られたものと推定される。したがつて、休業損害については、同年齢・同程度の平均賃金に基づいて算定するのが相当と考えられ、昭和五九年度の賃金センサスにおいて二〇歳から二四歳までの高校卒業者の年収が二四二万四四〇〇円とされていることは公知の事実であるから、原告は、右四七日につき、その主張のとおり金三一万二一八三円の得べかりし収入を失つたものと認めるのが相当である。

(四) 後遺症による逸失利益

前記のとおり、外傷性てんかんによる後遺障害等級は自賠法施行令別表記載の第九級であると認められ、てんかんの発作は服薬によつてコントロールされ、次第に改善の方向に向かつているものの、投薬を打ち切ると依然として発作が再燃する可能性が存在しており、この状態が短期間で解消することを肯定すべき証拠もないこと、左膝についても若干の不安が残つていること、等を総合し、労働能力喪失の程度を三五%とし、これが就労可能の六七歳まで四六年間続くものと認めるのが相当である。

次に、年収について、原告は、昭和五九年度の賃金センサスによる男子労働者(学歴計)全年齢平均の年収を主張するが、高校卒労働者の全年齢平均年収を採用するのが本件の実情に合つたものというべきであり、その額が金三九一万五八〇〇円とされていることは公知の事実である。また、中間利息控除の方式については、本件のように計算期間が長期に及ぶ場合は、ライプニツツ方式によるのが相当であり、四六年のライプニツツ係数は一七・八八である。

以上の数値に基づいて、労働能力喪失による逸失利益の額を算定すると、左記算式のとおり金二四五〇万五〇七六円となる。

3,915,800×0.35×17.88=24,505,076

(五) 慰謝料

前記後遺症の程度、入通院の期間等を考慮し、慰謝料の額は金五五〇万円(入通院分五〇万円、後遺症分五〇〇万円)をもつて相当と認める。

2  過失相殺について考える。

(一) 甲第一四号証、第一六号証、証人丸山直喜の証言、原告及び被告橋本の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、被告橋本は、当日、朝霞市幸町一丁目所在の被告フタバスポーツの支店に向け、加害車両を運転し、同支店前にさしかかつた所で、右方に転回を始めた際、同支店の先隣りの牛山ふじ方前において、加害車両の右側前輪付近を、右後方から追随し並進状態となつていた被害車両に斜めに衝突させ、被害車両は牛山方の更に一軒前方の道路右側まで飛ばされ、運転していた原告は路上に投げ出され、転倒したものであることが認められる。

(二) 被告橋本は、三〇メートル手前からウインカーを出していたと述べているが、原告本人は、「橋本車のウインカーが右に曲がるようにあがつたのを見た記憶がありません。自分の方に寄つてくる、危ないなと思うこともなかつたです。」と述べており、他に確証もないので、被告橋本が転回の合図をしたとの事実を確定できない。そればかりか、被告橋本は、加害車両が転回を行ない、センターラインを越え、これにほぼ直角になつた反対側車線内で被害車両と衝突したと述べているが、そうだとすると、加害車両が被害車両の進路を塞ぐ位置関係となり、被害車両の転倒位置を合理的に説明できず、右供述は採用できない。

(三) そこで、(一)で認定した事故態様によれば、原告も左側前方を進行する車両の動静に対する注意を欠いた過失があるものと認められ、過失の程度を原告につき一割として斟酌するのを相当と認める。

3  以上のとおりであつて、1の(一)ないし(五)の合計額は、金三〇四〇万二一〇五円であるから、過失相殺後の金額は金二七三六万一八九四円となる。これに対し、原告は損害明細表のⅡ記載のとおり合計金七二二万円の支払いを受けており、これにつき損益相殺をすることは、原告の自認するところであるから、原告が本訴において請求できる賠償額は、金二〇一四万一八九四円となる。

4  弁護士費用については、右認容額のほか、本件事案の内容等諸般の事情を勘案すると、本件事故と因果関係のある弁護士費用として加害者側に請求できる金額は、金二〇〇万円が相当である。

三  結論

以上の次第で、原告の被告橋本及び同フタバスポーツに対する請求は、金二二一四万一八九四円と内金二〇一四万一八九四円に対する不法行為の日より後の昭和五九年七月一〇日から支払済みまでの遅延損害金を求める限度で理由があるから認容するが、その余は失当として棄却し、原告の被告大正海上に対する請求は、後遺障害等級が第七級とは認められない以上、理由がないことに帰するので、棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 原健三郎)

損害明細書

〈省略〉

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